群馬大学医学部附属病院において肝切除後に死亡例が多発したことについて、確かに言い訳の出来ない事件ですが、記事だけが全てだとは思わないで下さい。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150304-00000010-mocosuku-hlth
群馬県前橋市の群馬大学病院で、2009年以降の5年間、肝臓の腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を受けた患者8人が、術後4か月以内に相次いで死亡していた、というニュースが報じられました。同院では、開腹手術でも、同じ執刀医で10人死亡の事実があるということなので、個人の技術的な問題も指摘されています。
本件は、患者・家族への説明が不足していたとか病院の倫理委員会に諮らなかったなどの不備が噴出し、擁護できない問題となっています。
しかし一方、地方の特定機能病院としての宿命があることを理解して下さい。
今時はNCD(症例データベース)があり、病院毎の手術成績は素人でも知ることが出来ます。肝切除の死亡率は全国平均で2%、群大病院はその3-4倍と確かに高いです。実績作りのために適応を広げて手術した、という話もあります。
しかし、統計のカラクリ、という部分もあります。
ある病院が手術の成績を上げようと思ったら、方法は簡単です。年齢・体力・進行度などの観点から、危なそうだと思った患者さんには手術をしなければ良いのです。患者さんが不満ならセカンドオピニオンを紹介します。大抵、その間に手遅れとなり、「やっぱり無理だと言ったでしょ」となります。
そうやって手術成績が良くなれば医者も患者も集まって、更に実績を上げてゆく、という好循環が生じます。
その部分だけ見ればメデタシメデタシですが。
見捨てられた患者さんはどうするのか。
或いは地方の患者さんは、わざわざ都会まで出て行かなくてはならないのか。
酷い医療格差を生じているわけです。
地方には、多少成績が悪くても手術をやってくれる地元の病院が必要です。
群大病院で8%亡くなっていると言っても、逆に言えば9割は助かっているのです。
ごく一部の富裕層を除いて、5%程度の確実性のために都会に出て諸々の高いコストを払って手術を受けることなど出来ません。
一方、手術しなければ可能性はゼロです。
勝負をかけなければいけないし、患者さんからそう頼まれれば医者もやらなければ、と思うものです。
本件の失敗は、リスクが高いならば尚更、事前事後の説明をしっかり行うべきだったし、病院の倫理委員会を通しておかなければならなかったことです。
死ぬかもしれない、などと書面に残すのは野暮ですが、それを怠ればこのように致命傷を負うことになります。
「リスクが高いことは分かっていますね?」「はい」といった口頭でのやり取りは、人権派弁護士にかかれば「そんなことは聞いていない」「大丈夫だと言われた」、と言う形に容易に覆されます。
件の外科医が100%悪かったかと言えば、色々な人々の思惑が絡んでいるので否と答えます。しかし、脇が甘かったのは間違いありません。
そしてその影響も甚大です。
群大病院は、肝切除は行えなくなり、今までギリギリ適応として手術が行えていた患者さんは死を待つのみとなります。
また、特定機能病院を5年間取り消され、財務は大幅に悪化し、名声は失墜し、研修医も来なくなり、医療全般の機能低下が群馬県全体に波及します。
その外科医も、診療を続けるとしても離島でしか働けないでしょう。
逆にこの事件で幸せになった人がいるのか?
その観点からは、もう少し穏便な形で済ませることは出来なかったのか? と思います。
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