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2013年5月23日 (木)

研究の失墜

この薬、やけに優秀な調査結果が出ているな、と少し不思議に思っていたのですが、残念な話です。こうなると、当該の薬の信用は勿論、他のエビデンスすら疑わしくなってしまうのですから。

降圧剤「バルサルタン」を巡る臨床試験に、製薬会社「ノバルティスファーマ」(東京)の社員が関与していた問題で22日、同社が社内調査結果を明らかにした。社員が関与したことについて「臨床試験結果に疑念を生じさせることになった。不適切だった」と謝罪した。上司もこの社員を支援していたことが分かったが、組織ぐるみだったかは「確認できなかった」とした。

この薬、商品名「ディオバン」は、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という降圧薬の一種として発売されました。

このARBに分類される薬は、1998年(だっけか)に最初の薬が日本で発売になって以来、雨後のタケノコのように類似薬が登場して現在7種類がしのぎを削り、去年からはジェネリックも登場する、日本で最も有名な薬の一種です。

それだけに、それぞれのメーカーが差別化を図ろうと躍起になって多くの臨床試験の結果が発表されました。

しかし、その結果は思ったほど優れたものではありませんでした。

一般的に血圧が高ければ高いほど脳卒中や心筋梗塞が起こりやすくなります。降圧薬はこれを防ぐために投与されます。個々の薬で比べた場合に、他の薬と比べて同じだけ血圧を下げた時に、それ以上に脳卒中や心筋梗塞の発症を抑えられれば優秀な薬と言えたのですが、ARBは軒並み、そうとは言えない結果に終わりました。

だからといってARBを使わない、と言うわけではなく、副作用が少ない、腎臓を保護する、高用量でも使える、といった点で便利なことは間違いないのです。

そんな中で別格に優れた結果を出していたのがディオバンでした。2009年から順次その結果が発表され、自分もそれを信じて多くの患者さんに処方していました。

ところが、今年に入ってディオバンに関する論文の不正が次々に明らかとなりました。2月には、その論文の責任者の大学教授が辞任に追い込まれました。

今回のニュースは、その不正に試験の現場である大学だけでなく、ディオバンの製薬会社も関与していたという話です。

当然と言えば当然です。

医学研究の分野では、利益相反行為と呼ばれています。

メーカーは、自社製品に有利な調査結果を出すように、研究費を提供して大学に働きかけます。大学としては、調査対象の患者さんのデータを都合良く解析してメーカー有利の結果を出します。これによって、メーカーは売上が増え、大学側にも更なる調査依頼や研究費の提供、と言う形で癒着が進行します。

今回この動きが明るみに出てディオバンの製薬会社は信用を落としました。自分の処方も、ディオバンを新規には出さなくなりました。

一企業の問題としては自業自得なのですが、その影響は社会全体に及びます。

すなわち、調査研究の信用問題です。

調査研究の結果が信じられなかったら、我々は何を信じて処方し、或いは生活したら良いのか。世の中全体の信用が揺らぐ問題なのです。

最近はこの件を受けて、大学などは利益相反問題に厳格に対処するようになりました。

真摯に研究している人々には頭が下がります。

彼等が誘惑に負けずに済むような報酬を得られるシステムも必要と思っています。

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コメント

なんてこった。

今より血圧高かった時はディオバンも飲んでたし,今もノルバスク飲んでます。

こうなると,気持ちの良いものではないですね。

投稿: naoki | 2013年5月23日 (木) 21時20分

コメントありがとうございます。

悪い薬ではない筈です。
それでも気分は悪いですね。

投稿: プー | 2013年5月23日 (木) 23時07分

この問題ですが、氷山の一角なのかも知れませんが、寄付が寄付でないお金になる可能性がある(臨床研究)については規制が入るべきかも知れませんね。

投稿: ティガ | 2013年6月 5日 (水) 18時18分

コメントありがとうございます。

利益相反はインセンティブに深く関わる問題です。
何処で誰がやっているか、本当に、氷山の一角なのでしょう。
規制の掛け方も難しい気がします。

投稿: プー | 2013年6月 6日 (木) 18時22分

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